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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

はちみつ3杯

蜂由美子

 

 「由美子さん、紅茶にはちみつ3杯ね」
 ああ、今朝も言われてしまった。
 夫の母は大の甘党である。はちみつは、砂糖より甘味が濃くておいしいからと、毎朝私にそう指示をする。「お義母さん、はちみつ3杯は摂りすぎよ」と、胸の中でつぶやきつつも「はいはい」と返事をする。
 食器棚から1・5リットル瓶のはちみつをよいしょと取り出し、テーブルで紅茶を入れ始めた。「摂りすぎは…」と、もう一度心のなかで反芻するが、義母はベッド越しに私の手元をじーっと見ているので、やれやれと苦笑しつつ約束を守る。
 94歳の義母は、足が弱って寝たり起きたりになってから、甘党に拍車がかかった。他に楽しみがない、楽しもうにも体が動かないとなれば、食べ物に目がいくのは当然だろう。
 でもなあ。はちみつ3杯は、いくらなんでも多すぎるんじゃないの?そう思いながらも、ダメとは言えずにいた。
 ある日のこと。義母のご機嫌が良くなく、珍しく私につっかかってきた。認知症を患っている人にはよくあることと頭ではわかっていたが、その日に限っては義母の言動に疲弊した。疲れた。もう介護なんて私にはできない。そう思いながら台所に引っ込み、お湯を沸かして、自分だけのために濃いめの紅茶をマグカップいっぱいに注いだ。
 ええいっ。たまには私だってと、太るから我慢していたはちみつを入れた。しかも、義母に負けじと大さじ3杯。
 あれっ。うまいじゃないか!こっくりとした優しい甘さが体全体に沁みわたった。はちみつのまろやかさで、なんだか急に元気になってきた。
 そうか。義母の心身の安定剤は、たっぷりのはちみつだったんだ。そうとわかった途端、口元がゆるみ目の奥が熱くなった。
 カップの中では、溶けかかっているはちみつがぐるりと円を描いている。私の心も、ふんわりと丸くなっていった。
 明日は、はちみつ3杯の紅茶、義母といっしょに飲もうかな。

 

(完)

 

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